【変わる企業 揺れる社会】女性の立場から

(転載開始)

『産経新聞』2003.03.11 朝刊

【変わる企業 揺れる社会】女性の立場から(1)

人事制度の「常識」覆す

▼男性中心を脱却、能力活用

 この春、資生堂の採用に異変が起きた。もともと新入社員は六対四で男性が多かったが、ついに女性社員が男性を初めて上回ったのだ。女性三十人に対し男性は十四人。男女比率は三対七に逆転した。女子学生らを引き付けたのは、資生堂の女性活用の取り組みだ。

 専任スタッフ二人による「ジェンダーフリー推進事務局」を設置したのが平成十二年秋。育児休職や復職の制度拡充など女性が働きやすい環境を整備してきた。とくに画期的なのは人事制度の“常識”を覆す改革にまで踏み切ったことだ。

 通常、企業は戸籍にならい無条件で男性のみを世帯主と見なしている。それを資生堂は「世帯で最も収入が多い者を世帯主とする」と改めた。

 世帯主には、非世帯主にない家族手当などがあるが、この手当を含めた金額が賞与の算定基準になっているため、男女では同年齢、同役職でも賞与で最大十数万円の格差が発生していたからだ。資生堂には夫の収入を上回る女性世帯主も相当数にのぼっている。

 「女性という“含み資産”を活用する社の姿勢が、優れた女性の人材確保にもつながった」と人材育成グループの関戸由美子さんはみている。

               ◇    ◇

 女性の能力活用に取り組む企業が増えつつある。帝人も十二年、「労働人口が減る中で女性活用は急務」との安居祥策社長(現会長)のツルの一声で「女性活躍推進室」を開設した。

 新卒採用で女性総合職を五倍近くに増やし、中核部門の女性管理職を十七年度末までに現在の二十人から六十人に引き上げる方針だ。田井久恵室長は「いずれは役員登用も視野に幹部教育を進めたい」と語る。

 松下電器産業も中村邦夫社長の号令で、十三年四月、「女性かがやき本部」を設置した。

 中村社長はいう。「松下は女性が購買決定する製品を作りながら、女性の能力をほとんど活用してこない異常な会社だった。仮に高度経済成長の時代から松下が、女性の能力を活用していたら、もっとすごい企業になっていた」

               ◇    ◇

 日本の企業社会は長く男性中心で、女性のハンディは重かった。ようやく、女性活用の輪が企業に広がっている。だが、歴然と残る性差を解消するにはほど遠い。

 厚生労働省の「女性雇用管理基本調査」(十三年度)によると、一般労働者(パートやアルバイトを除く正規の社員)のうち、平均女性割合は28・6%にとどまる。係長相当職以上の女性の管理職は、わずか7・8%。昇進のスピードは男女で異なり、男性は四十−四十九歳で24・5%が課長相当職になっているが、女性は4・1%だ。

 女性の年齢別労働力をみると日本は働き盛りのはずの二十代後半から三十代後半にかけてガクンと落ちる。三十−三十四歳で57・1%。潜在的な労働力が81・5%もあるにもかかわらずだ。結婚、育児をする年齢と重なっているためだが、七割以上のドイツやフランスなど欧米との差は大きい。

 同志社大専任講師の中村艶子さんはこういう。「女性が仕事と育児の両方を通じて自己実現できる社会の到来には、まだ乗り越えるべき壁は高い。企業だけでなく男性や家族、国や自治体などあらゆる関係者が問題を理解し、根気よく女性の就業支援に取り組んでいくことが必要だ」

               ◆   ◆

 男女雇用機会均等法が施行されたのが昭和六十一年四月。それから、企業は女性とどう向き合い、女性の立場は、どう変わったのか。今回の「変わる企業・揺れる社会」では企業社会の女性の立場を考えてみる。

(「変わる企業」取材班)

『産経新聞』2003.03.11 朝刊



『産経新聞』2003.03.12 朝刊

【変わる企業 揺れる社会】女性の立場から(2)

消える「一般職」

▼試行錯誤の中、意識改革

 「入社したときは腰掛けでいいかな」と思っていた大和証券の深田直子さんは平成十年、一般職から「エリア総合職」に転向した。転居を伴う異動はないが、仕事内容は総合職と変わらない。いま、東京・町田支店の投資相談課長代理。入社以来、十年以上着た制服を私服に着替え、第一線で活躍している。

 大和証券は店頭で顧客の投資相談に応じていた一千人以上の一般職女性を総合職にした。深田さんはその一期生。「分からないことは『総合職の男性社員に聞けば』という甘えは許されない」と気を引き締めている。

 同社で総合職になるには、証券外務員一種資格試験や社内試験に合格することが必要だが、会社側はこれを全面的にサポート。結婚や育児などを理由に転勤ができない社員も総合職に転向しやすく、一般職女性の約七割が「エリア総合職」になった。

 「これで、女性を含めほとんどの正社員は全員一軍になる。社内の士気は上がった」と同社の人事担当者はいう。

 ダイキン工業も十三年四月に総合職、一般職の区分をなくした。試験はなく「今日からは全員、総合職」と大胆に切り替えた。女性活用に取り組んでいることを全社員に実感してもらうこと、そして女性社員の約九割を占める一般職も重要な労働力としてみなすことが“時代の要請”ととらえたためだ。

               ◇   ◇

 「一般職」「総合職」が区別されるようになったのは、昭和六十一年の男女雇用機会均等法施行からだ。多くの女性の仕事だった事務職などを「一般職」とし、主に男性が行っていた仕事を「総合職」として区別するようになった。一般職は総合職に比べ賃金は低く、昇格も難しい。

 厚生労働省の調査(平成十三年十月発表)によると、総合職に占める女性割合は2・2%。一方、採用時に一般職に占める女性割合が100%の企業が九割以上ある。企業側の本音は、男女区別人事だった。ようやく一般職をなくすことに企業が取り組み始めたのは、男女均等雇用を進める一方、社員一人にかかる仕事量、責任を増して、レベルアップと人員削減を図る必要がでてきたためだ。

 一般職の仕事の事務は、専門的能力を身に付けた契約社員や派遣社員を雇用する方が、合理的な場合も多い。「一般職だから」と腰掛け気分や上昇志向のない正社員は、会社に居座ることは許されない時代に入った。

 もっとも、一般職廃止については賛否両論がある。ダイキンの社内報(十三年十二月号)に紹介された「女性社員・基幹職の本音」によると、「業務の背景や流れの理解が深まった」という女性の声に対し、こんな意見もある。

 「今のハードワークが続けば結婚、出産後の両立は困難。女性に家事を任せて仕事をしている男性が多いのに、女性に両立を望まれても無理」(女性社員)、「結婚、出産でいつやめるか分からない女性を自分の後継者としては見られない」(基幹職)。ようやく踏み出した一般職廃止だが、現場では試行錯誤が続いている。

 働く女性の実情に詳しい中小企業診断士の北口祐規子さんはいう。「一般職などのコースに関係なく、社会の中での自分の責任を意識してほしい。それぞれの場所で、目標を持ってオンリーワンの存在になれば、価値が認められるはずだ」

(「変わる企業」取材班)

『産経新聞』2003.03.12 朝刊


『産経新聞』2003.03.13 朝刊

【変わる企業 揺れる社会】女性の立場から(3)

育児にまだ厚い「壁」

▼休暇後のフォロー必要

 「お散歩楽しかった? さあ、ご飯にしましょう」。泣き出す子供をあやす保育士さん。どこにでもある保育園の風景だが、窓の外を見ると高層ビルが立ち並ぶ。東京・丸の内の真ん中、日本郵船本社ビルに「丸の内保育室」がある。

 女性が働く上で、ネックになるのが育児だ。首都圏では認可保育所のキップを手に入れるのは難しく、保育所に入れても通勤電車に揺られ、子供を迎えにいくころはすっかり夜が更けている。

 「それなら、いっそのこと会社に保育園を作ってしまったら。丸の内で実現すれば社会的メッセージにもなる」。日本郵船広報グループの浜本佳子課長代理はこう決意。広報の女性スタッフらが奔走し、平成十三年に開設にこぎつけた。

 「子供の体調が悪いとき、すぐ駆け付けられるのがうれしい」と、一歳半の長男の終日保育を利用している秘書グループの稲村麻由美さん(三五)=仮名=は話す。

 浜本さんも「保育室開設前は周囲の目を気にしてそそくさと帰宅していた女性社員が、時には残業もできるようになった」と打ち明ける。

               ◇   ◇

 企業内保育所はここ数年でトヨタ自動車、日立製作所、富士通など大手企業を中心に急増、こども未来財団によると十三年九月現在で千四百九十一カ所に上っている。

 同志社大の中村艶子講師は「米国では八〇年代から企業内保育所が普及した。優秀な人材を確保する上で、積極的な育児支援は重要な課題。日本でも女性のキャリア形成において有効な選択肢となる」と語る。

 もっとも、企業内保育所ができても一件落着とはいかない。日本の企業風土では、なお「思わぬ意識の壁」が立ちはだかるからだ。

 日本郵船が企業内保育所を導入する際、社内の年配の女性社員から「自分たちは苦労して子供を育て上げたのに。若い人は恵まれている」と反発する声が一部あったという。男女の雇用機会均等などという言葉すらない時代に働いてきた彼女たちは他人にも厳しい。

               ◇   ◇

 そもそも出産、育児をするには、現実的に一定期間「リタイア」することは避けられない。

 このため、大阪ガスでは、最長で子供が三歳となる月の月末まで育児休暇を取得できるようにしたり、育児用品メーカーのコンビは男性社員にも、半強制的に育児休暇を取得させるなどの動きが広がっている。NECも十三年度末までに十人の男性が最高六カ月の育児休暇を取得した。

 しかし、こうした制度が充実している企業は多くはないし、育児の負担に耐えている女性社員は多い。

 厚生労働省によると、男性の育児休暇取得率は1%に満たず、女性に負担がかかるケースが現実に目立っている。育児休暇に入って、そのまま退職するケースも後を絶たないという。

 中村講師は「三カ月以上も現場を離れると、自分が社会から置いていかれるのではとの不安が生まれやすくなる」と指摘する。確かに、休暇中、休暇後の企業のフォローが求められている。

 かつてほどではないとはいえ、日本ではまだまだ「育児は女性の仕事」といった意識が根強く残る。育児という営みが、女性のキャリア実現にとって障害にならない日が到来するには、なお時間がかかりそうだ。

(「変わる企業」取材班)

『産経新聞』2003.03.13 朝刊


『産経新聞』2003.03.14 朝刊

【変わる企業 揺れる社会】女性の立場から(4)

管理職への扉

▼まだ“半開き”米と格差

 UFJ銀行の城東支店(大阪市城東区)で働く村岡桂子さん(四一)は支店長代理の肩書を持つ。五十二人が勤務する中、リテール(個人向け)部門のナンバー3格。支店長の決裁業務を代行することができ、いわば係長に当たるポストだ。

 大阪市内の高校を卒業し、昭和五十五年に三和銀行に一般職(現・特定職)として入行、店舗窓口担当者の道を歩んだ。半年ごとに集計される商品販売記録で十四期(七年)連続、優秀者に選ばれたこともある。

 平成五年ごろ、行内に「女性を管理職に」というムードが生まれ、優秀な女性行員を本部に異動させ、代理昇格含みで支店に送り出す流れが作られた。村岡さんは、その女性支店長代理の一人に仕え、同じコースに乗って平成十年に代理に昇格した。

 男性中心と見なされる銀行業界だが「男なんて」と肩ひじ張ってきたつもりはない。上司の副支店長兼リテール業務責任者、上嶋芳彦さんは「女性なりのこまやかさで、男性管理職より相談しやすいという声も聞く」と信頼を置いている。

 三和銀行と東海銀行が合併したUFJ銀行には、今年一月末で計二百人の特定職の女性管理職が活躍している。基幹職(総合職)には約五十人の女性管理職がおり、部長クラスが現れてもおかしくない見通しだ。

 平成十四年度均等推進企業表彰で厚生労働大臣表彰を受けた大丸は、十三年に初めて女性を部長に抜擢(ばってき)し、部長職は現在四人。女性管理職は計百八十四人に上り、約18%を占めるまでになっている。

               ◇   ◇

 大阪労働局の木村スズコ雇用均等室長は「均等法が施行され、女性が管理職に就き始めてから、十年あまり。人材が増えてきているのは確か」と話す。女性登用が企業に意識づけられてきたのではないかというのだ。

 といっても企業の女性の管理職登用はようやく緒についたばかり。厚生労働省の「平成十三年度女性雇用管理基本調査」によると係長相当の女性の比率は11・9%、課長相当は5・5%、部長相当は3・2%。役職が上がるにつれて、女性の管理職は少ない。

 しかも、大手企業ほど女性管理職の割合が少なくなる傾向が強い。新日本製鉄の場合、係長職以上の女性は約百人と管理職全体の1・5%だ。

 有能な女性の積極活用を目指すNPO法人(特定非営利活動法人)「女性と仕事研究所」代表の金谷千慧子さんは、一般労働者の一事業所当たり平均勤続年数が女性では九・八年となっていることについて、こう警鐘を鳴らす。

 「新卒女性なら三十代前半の時期に当たり、昇進にあきらめも感じ始めるころ。企業が入社後五年程度で本人の意思を確認、昇進できる見通しを示さないと女性の意欲はそがれていくばかり」

 同研究所は、一九六二年に米ニューヨークで発足した有職女性団体「カタリスト」がモデル。カタリストが九八年、経済誌選出の業績ベスト五百社から、女性役員の比率を調べたところ、業績上位の企業ほど女性の比率が高かったという。

 「米国の優良企業がいかに実力主義で、人材を登用しているかという表れ」と金谷さん。同研究所では三月中旬の公表を目指し、聞き取り調査を基に、独自で日本企業の女性登用評価を進めているが、近い将来、女性管理職の比率も、業績判断の指標に加わる日が来るかもしれない。

(「変わる企業」取材班)

『産経新聞』2003.03.14 朝刊


『産経新聞』2003.03.18 朝刊

【変わる企業 揺れる社会】女性の立場から(5)

再就職に高いハードル
▼即戦力へ意識改革必要

 結婚退職して五年、子育てに専念していた石本弥生さん(三四)は、平成十二年に「社会の中で必要とされる場所を見つけたい」と一念発起。再就職を目指して、パソナが開いている主婦向けの再就職支援セミナー「奥さまビジネスインターン」を受講した。

 仕事に対する意識や身だしなみなどの基礎を勉強していたが、責任感の強さ、チャレンジ精神などがかわれて、二カ月後そのままパソナで働くことになった。

 「一緒に仕事ができてよかったわ」。再就職の初日、石本さんは同僚の声が、とてもうれしかった。幼い子供がいるため残業は無理だが、限られた時間を効率的に使うことを心がけている。

               ◇   ◇

 出産などで退職したものの、再就職を目指す女性が増えている。21世紀職業財団京都事務所が一月下旬に開いた再就職準備支援講座「Re・Beワークセミナー」に参加した京都府笠置町の専業主婦のAさん(四三)も、そのひとりだ。

 十五年前、長男を出産したとき、会社から「子供がいたら仕事は難しい。やめてほしい」と言われ退職。二男が中学校に入学したのを機に再就職することを決心した。

 「育児と親の看護で就職の機会がなかったが、これから一生働ける仕事を身につけるつもり」と意欲的だ。しかし、復帰のハードルは高い。

 女性の求人情報提供などを行うハローワークウイング(大阪市中央区)によると、小さな子供を育児中の求職女性に「子供の急病などで突然、休まれると困るから採用できない」(販売業)と断る企業もあるという。

 社会環境の整備も不十分だ。就学前の子供がいる場合、認可保育所への入所は就職している人が優先とされるため、求職中の入所は難しい。就職しなければ入所できない、入所が決まらないと就職できないという矛盾に悩まされている。

 総務省によると女性雇用者全体の中の既婚者は、昭和五十年代に50%を超えた後は横ばい。平成十三年は56・7%にとどまっている。厚生労働省の「平成十三年版働く女性の実情」によると、結婚後も働いていた女性のうち、第一子出産で仕事をやめた人の比率は72・8%と高い。

 多くの女性の幸せだと思われていた「寿退社」や、専業主婦で過ごす「永久就職」は、女性の価値観の変化で変わってきた。十六年一月から所得税の配偶者特別控除が廃止されると、専業主婦の求職者が急増する可能性は高い。

              ◇   ◇

 その希望に応えようと、企業の門戸も広がりつつある。日立製作所は、出産、育児のために退職した社員に対し、子供が就学するまでは優先的に再雇用している。

 ベネッセコーポレーションも再雇用制度を実施、十四年四月までに二百二十六人の登録がある。ダイエーは、退職前の資格を保障して、採用枠があれば優先的に再雇用する制度の四月導入を検討中だ。

 再就職を目指す女性にとって、ブランク中の社会の変化についていけるかどうか不安もあるが、パソナの鈴木雅子・常務執行役員はこうアドバイスしている。

 「再就職の場合は、個人がビジネススキルを高め、即戦力となることが必要だ。育児などでブランクが長くても、目標を持ち、働く意欲があり、会社の中で存在価値があれば受け皿はある」

(「変わる企業」取材班)

『産経新聞』2003.03.18 朝刊


『産経新聞』2003.03.22 朝刊

【変わる企業 揺れる社会】女性の立場から(6)

能力生かせる外資系
▼女性の立場から 「すべてが自己責任」

 「ミナコ、君の考えを聞かせてくれないか」。神戸市東灘区にあるP&Gの会議室。外国人の同僚に答えながら、吉川美奈子スーパーバイザー(三四)は「準備してきておいてよかった」と胸をなでおろした。

 吉川さんが働く部署は日本企業でいう広報部だが、ブランドPRから生理用品の普及啓発のイベント企画まで仕事は幅広い。「会議では必ず意見を求められる。男か女かなどは関係ありません」。黙っていると会社に貢献する気がないとさえみなされる。

 吉川さんは第一子の出産後にP&Gに転職した。入社面接で面接官に女性がいて驚いたという。「実際の仕事の話が聞けて興味がわいた」。日本企業では年配の男性にじろじろ見られ、いやな思いをしたという。

 P&Gでは、育児・介護休暇制度はもちろん、ベビーシッターも必要に応じて請求ができるほか、女性社員によるサークル組織があり交流や情報交換を行っている。

 ただ、入社後は大変だった。新入社員扱いや男女の違いはない。「日本のように『上司の背中を見て学べ』といった悠長な雰囲気はありません」と吉川さんはいう。

     ◇   ◇   ◇

 米国GEグループの金融会社、GEコンシューマー・クレジットの蓮池直美さん(三五)は、ある電池メーカーで契約社員として働いていたが、「正社員としてキャリアアップをはかりたくて。女性も実力が発揮できる外資系で力を試したい」と転職した。

 入社した年は、ちょうど同社が消費者金融のレイクを買収したとき。交渉役の上司のアシスタント兼通訳を任された。現在は顧客情報を分析し商品企画を行うグループでマネジャーを務める。「実質五年間で異例のスピード出世」(広報)だ。

 ただ、成果が出せない人には厳しい。成績次第で給料が横ばいのこともある。住宅や扶養手当もない。「給料は仕事の対価」という方針が貫かれ「すべてが自己責任」(蓮池さん)なのだ。

 とかく女性も働きやすいとのイメージで語られる外資系企業だが、大半の企業が特別に女性の職域拡大に取り組んでいるという実態はない。女性が企業で活躍するのは当たり前の世界だ。

 ネスレジャパンの西森理佳子・ウェブ&コミュニケーション室長は昨年、スイス本国で行われる研修セミナーに選抜されて参加した。マーケティングの本格トレーニングを受けるためだったが、西森さんのコースだけでも二十カ国から二十五人が集まり、そのうち三分の一が女性だった。

 クレディ・スイス生命保険の藤井郁子人事・総務部長も、こういう。「意図して女性の管理職を増やそうというようなことはありません。ただ男女が平等ということであり、女性に肩入れすれば逆差別になる」

 女性にとってキャリアを伸ばしやすいという点で、外資系は魅力が大きいのは確かだ。同志社大の中村艶子講師は「今後は日本企業も外資と提携したりトップが海外から送りこまれるようなケースが増え、相互に企業風土に影響を与えあう時代になるだろう」と予測している。

 そのとき、日本は男女が共生できる企業社会に成熟しているかどうか。男女雇用機会均等法が施行されて十七年になるが、海外や外資系と比べてみると、その歩みは遅々としているようにみえる。

=おわり

 (「変わる企業」取材班)

『産経新聞』2003.03.22 朝刊

(転載終了)