中小企業の戦略的Web活用による経営革新&起業事例


企業のIT活用の診断・支援では、売上・在庫などの業務処理を担う基幹系システム、情報共有やコミュニケーションを推進する情報系システムなどを対象にすることが多いのですが、今回は、そのどちらにも効果を発揮することができるインターネット上のWebサイト(企業のホームページ)に焦点を当ててみました。

一昨年から昨年にかけて、南河内地域中小企業支援センターや大阪府中小企業支援センターなどを通じてお手伝いさせていただいた、企業あるいは起業家で、Webサイトを戦略的にうまく活用し経営革新や創業を果たした(つつある)事例をご紹介します。


1.雑貨製造業のWeb戦略

最初は藤井寺市に本社をおく「株式会社 プティルウ」。社名はフランス語で可愛いオオカミという意味で、テディベア製品で自社のオリジナルブランドを展開する生活雑貨製造業である。経営者は男性だが、パートを含めて約30名の従業員は数名の営業マン以外全員女性。アットホームな雰囲気ですべての業務をこなしている。


◆支援のきっかけは、受注や販売管理業務の改革とその処理をする基幹システムの再構築であった。現状業務の分析や問題点の抽出から取り組み、企業のコンセプト「人々の心を豊かにし生活に潤いをもたらす個性あるオリジナル商品を提供する企業」と定義、自社の目指すべきビジネスモデル(あるべき姿)とそれを実現する情報化戦略の議論をすすめた。これまでは小売店・専門店からの営業マン経由の受注、FAXでの受注がほとんどで、個人顧客からのWebサイト経由の受注(ネット受注)は片手間程度に取り扱っていた。システムの対応も同様であったが、議論の中から、ネット受注や大手得意先から要請されていた発注データのオンライン受注(データ受注)も含めて、多様な受注形態を統合し効率的に処理できる社内システムを目ざすという方向性がみえてきた。


◆同時に個人顧客からのネット受注の増加、自社ブランドの確立を目指してWebサイトの全面的リニューアルにも着手。わかりにくくなっていたサイトマップの整理とコンテンツの充実、レンタルサーバの移転・運用、ショッピングカートのしくみの活用、検索サイト対策など筆者が提示した課題について、経営者自らが猛勉強され、納得できるWeb構築のパートナー企業をネット上で見つけ、社内の担当要員も補強するなど、かなりの労力とコストをかけた。

◆昨年11月にリニューアルオープンしたサイトのトップページが下図(www.ptl.co.jp)。


これまでのファン(固定客)に加えて新規顧客も獲得し受注件数が増加。ネット受注が月額100200万円とおよそ倍増し、全社売上の3〜4%を占めている。


◆社長いわく、ネットでの売上を全社売上の10%にまで増やすことがひとつの目標だが、数値目標だけでなく、「自社ブランドを多くの顧客に直接見てもらい、またダイレクトに反応が得られる。Webサイトはメーカにとってまさに商品力とならぶ車の両輪である。」自社のあるべき姿に向かって邁進されている。

2.Webを活用した起業

 次は、枚方市のインキュベータ施設に事務所をおくウェディング工房「てく・まりんぼ」。皇室デザイナー出身の女性起業家による、Webサイトでのオーダーウェディングドレス専門店で、大阪府のテイクオフ大阪21認定事業である。社名は愛娘さんの名前に由来する。

◆支援のきっかけは、起業時から運営していた「楽天」内の店とは別に独自のサイト(本店)をオープンするに当たってのご相談であった。ドメイン名の取得、レンタルサーバの機能比較やかいものかごASPの検討・決定など、これまでの「楽天」が提供するサービスに依存しない「本店」の構築に自らがたいへん積極的、精力的に取り組まれた。


◆本店開店後の最大の課題は、「楽天」という知名度を活かせない(※楽天から独自サイトへの誘導は禁止されている)という制約の中での、本店の知名度アップとオーダーの獲得。楽天のショップ仲間やeショップ繁盛のためのセミナーなどでノウハウを吸収、自らのページでつぎつぎに実践し、昨年11月より本格的に稼動した本店のトップページが下図(www.marinbo.com)。


検索エンジン対策も十分で、例えばGoogleで「ウエディングドレスオーダー」で検索すると1ページ目のかなり上位に表示される。受注も好調。「月3着限定製作。皇室衣装スタッフ出身のデザイナーがあなたの夢を形にします!」をキャッチフレーズに5ヶ月先まで予約が埋まっている。また、本店からは楽天店への誘導も行っているので本店経由の楽天での小物の売上も増えている。


◆本店の業績が順調に推移し、今後は起業時からの夢である、もっともっと自分らしい温かみのある結婚式を挙げたい花嫁さん達のために「手作りのこだわりウエディンググッズ」を扱っている他のサイトを紹介するショッピングサイトの立ち上げや、メンズフォーマルの専門店との業務契約など、自分らしい結婚のトータルプロデュース企業としてのステップアップを目指している。「ウェディング・ドレス」という事業ドメインの中で「ドレス」のデザインに強みを持ちながら、事業展開としては「ウェディング」に重点を置くという明確なビジョンが生きている。さらに、女性起業家として起業塾の講師を務めるなど活躍の場が広がっている。


3.食肉加工業のWeb戦略

最後は羽曳野市に本社をおく「オーケーハム食品」。 従業員10名弱の小規模企業だが経営の立て直しに東京から戻ってきた息子さん(元商社マン・現経営者)が、従業員と一丸となって経営革新に取り組んでいる。


◆支援のきっかけは、地域で開催した経営者交流会(異業種交流会)でお話を伺ったことである。平成14年度に生産設備の革新をテーマに経営革新支援法の承認を受け、販路についても、これまでのような量販店への卸という、きびしい価格競争・値引き攻勢の世界から脱却して、自社の特徴ある商品をアピールできる新しい売り方を模索しているところだった。支援法適用の承認を得られるまで、自力で書類を作成し窓口に何度も足を運んだという経営者の強い意志・熱意と、参考になることは何でも吸収しようという柔軟な姿勢に、アドバイスの「やりがい」を感じさせてもらっている。


◆事業の目的を、「お客様に安心して高品質でリーズナブルな価格で商品をご購入いただき、『おいしい』と言っていただくこと」と定義し、直接消費者の反応が得られる新たな販路として工場所在地の最寄り駅近くに直営店を開店、またWeb上ではネットショップを開くこととなった。Web製作は身体障害者の自立支援センターに約50万円で発注、経営者の理念が読み取れる。昨年12月にオープンしたサイトのトップページが下図(www.ok-ham.com)。


◆立上げ間もないが、年末の贈答シーズンをうまく利用し受注を獲得。同時に商品やWebサイトに関する顧客の感想・意見をうまく吸い上げて、できることはすぐに実践している。名刺にHPアドレスを入れたり、商品に貼るシールを作ったりしたことで、従業員のモチベーションもアップ、小規模企業の良さを十分活かしている。課題は検索ヒット数の増加策。「もっと色々なお客様がHPを訪問し商品を購入して下さればもっとやる気もでるのではないか」と経営者は次のステップに思いを馳せている。


<まとめ>

ご紹介した企業、経営者の他にも、Webの活用について多くのご相談を受けてきましたが、正直言って、相談者の思惑どおりには行かないケースの方が多いのが現状です。では「うまくいく」ためのポイントは何なのか、今回の事例を参考に筆者の意見をまとめてみました。

@経営者のビジョン、事業の目的が明確であること。Webはその目的の達成手段、あるいは課題の解決策のひとつであることを、経営者自身がきちんと理解していること

A経営者の強い意思とスピーディーな決断力、行動力。特に「忙しい」を口実に対応を後回しにしないこと。

B専門家が、関連情報の的確な提供と取捨選択へのアドバイスを行うこと。


皆さまの今後の診断・支援業務のご参考になれば幸いです。